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計測連携CAE事例

見えない“内部”を計測とシミュレーションで解き明かす

計測連携CAEによるパワーモジュールの動的な内部評価手法

研究の背景と課題

高出力密度パワーモジュールの開発では、従来のCAEアプローチに根本的な限界がありました。

🌡️放熱性の評価困難

 
動作中のチップ発熱を効率よく逃がすための設計は、内部の熱挙動を正確に把握しなければ最適化できません。
 

⚙️疲労による信頼性低下

 
繰り返しの熱負荷による力学的疲労を抑制するには、部材間の熱応力分布を正確に評価する必要があります。
 

シミュレーションの不確かさ

 
界面熱抵抗や表面熱伝達係数など、設計段階では決定困難なパラメータがシミュレーション精度を大きく左右します。
 

🔬内部状態の直接観測不可

 
パワーモジュールの内部は封止樹脂で覆われており、動作中の内部温度・変形状態を直接計測することができません。
 

提案手法:計測連携CAE

計測連携CAEでは表面計測結果を用いてCAEにあらわれる不確かさ因子の同定を行うことで、計測結果を再現するシミュレーションを実現します。
表面計測結果を高い精度で再現するシミュレーションの結果は、パワーモジュール動作時の内部の状態をより現実に近い形で再現していると期待され、それにより信頼度の高い性能評価が可能になります。

1.
表面計測


 
赤外線カメラ(ImageIR)で温度分布、デジタル画像相関法(ARAMIS)でZ方向変位分布を同時計測。動作中のモジュール表面の過渡的な挙動を記録します。
 

2.
不確かさ因子の同定


 
計測結果をCAEシミュレーションに照合し、界面熱抵抗・表面熱伝達係数・封止樹脂の線膨張係数(CTE)といった設計段階では決定困難なパラメータを逆解析的に同定します。
 

3.
高信頼な内部評価


 
同定済みパラメータを用いた熱伝導解析・熱応力解析により、直接観測できないモジュール内部の温度分布・変形挙動を高精度で推定します。
 

事例紹介

以下では、試作したパワーモジュールに対して計測連携CAEを実施した事例を紹介します。 パワーモジュールの動作時に計測された表面温度および表面ひずみ分布は直感に反した特徴的な振舞いを示しました。そして計測結果に同定されたシミュレーションを用いた内部評価により、これらの特徴的な振舞いのメカニズムを解明しました。

1. 表面計測の結果

(左)温度分布、(中)Z変位分布、(右)特徴箇所の推移

計測対象と計測機器
ショットキーバリアダイオードを実装した片面冷却型パワーモジュール(38×32 mm²)を製作し、計測対象としました。
温度計測: InfraTec社製 ImageIR(赤外線カメラ)
変位計測: ZEISS社製 ARAMIS(デジタル画像相関法)
通電条件: 一定電流を100秒間印加後オフ、計200秒間を3Hzで計測
冷却方法: 10℃の冷却風による強制冷却
冷却面を露出させた状態で通電することで、チップからの放熱が直接現れるモジュール冷却面の温度・変位を同時計測しました。
 
上記は計測された温度分布(左)とZ変位分布(中)を表します。
ARAMISでは計測面の表面方向のひずみ、およびXYZ方向の変位の計測が可能ですが、ここでは温度上昇に伴うモジュールの反りを特徴づけるZ変位に着目します。Z方向はパワーモジュールの板厚方向を表します。
表面の温度およびZ変位は100秒に至るまで分布が変化し、その後に分布が消えていく様子が分かります。
右図は特徴点における時刻歴推移を表します。特徴点は温度とZ変位の100秒時点での最大位置とし、それぞれの分布内の〇で表されます。

1-1. 表面計測: 温度分布の特徴

(左)100秒時の表面温度分布(右)評価ライン上の温度分布、●は最高温度箇所

温度分布は定電流印加後に温度上昇が続き、100秒時点ではほぼ定常的な分布に収束します。
左図は100秒時の温度分布、および内蔵するチップ位置と表面の冷却板の位置を表します。
一般にパワーモジュールはチップにおける発熱を冷却面に逃す構造となっており、冷却板表面においてはチップ直下が高温になることが期待されます。
しかしながら計測された表面温度分布では冷却板のチップ直下位置よりも冷却板の外周部の方が高温となりました。(●は最高温度箇所)
右図はチップ直下位置を横断する評価ライン上の温度分布を表します。こちらの温度分布でもチップ直下よりも冷却板の外側の両端が角のように高温となっている様子が分かります。

1-2. 表面計測: Z変位分布の特徴

(左)100秒時の表面Z変位分布(右)最高温度箇所および最大変位(反り)箇所の時系列推移

Z変位分布では特徴的な時間変化が測定されました。
左図は100秒時のZ変位分布を表します。100秒時には紙面奥方向に凸の25um程度の反りが生じ、Z変位の反り量の最大位置は中央(★印部)となります。
右図は同箇所のZ変位の時系列推移を表します(右軸)。参考に100秒時最高温度箇所の推移も表示します(左軸)。温度は100秒時まで単調に増加し、通電オフ後はまた単調に初期温度に戻ります。
一方でZ変位は以下の様な非単調な推移を示します。
 ① 通電直後の5um程度上凸変位
 ② それ以降は下凸変位が支配的
 ③ 100秒時は30um程度下凸
 ④ 通電OFF直後に下に5um程度下凸が起こる
 ⑤ その後は初期状態に戻る
以下、本研究では計測連携CAEによるこの非単調な振舞いの原因解明を行います。

2. 不確かさ因子の同定

計測に用いたモジュール

試作モジュール概要
上図は本研究で用いたモジュールの外景 (a)、および内部構造 (b) を表します。
上図は本研究で用いるパワーモジュールの(a)外景、(b)内部構造(封止樹脂非表示)、また断面構造をラインA(c)およびラインB(d)を表します。また(c)および(d)には計測における最高温度箇所(●印)および最大Z変位箇所(★印)の該当箇所をそれぞれ示します。
 
シミュレーションおよび不確かさ因子
本研究では計測連携CAEを実施するため構造解析ソルバーFrontISTRを用いたシミュレーションを実施します。シミュレーションは上記の計測を模した非定常の熱伝導解析、およびそこから得られた温度分布を入力荷重とした熱応力解析から構成されます。
不確かさ因子として熱伝導解析では表面の熱伝達係数と断面図(c)および(d)の黄破線部に界面熱抵抗を用い、また熱応力解析では封止樹脂の線膨張係数を用います。

2-1. 温度分布の同定結果

温度分布の同定結果

計測された表面温度分布をシミュレーションにより再現するため、計測を模した非定常の熱伝導解析を行います。解析ではチップ発熱量を計測時と同等の値として100秒間設定し、その後発熱をオフとしてさらに100秒間の計200秒間の計算を実施します。
不確かさ因子にはモジュール表面の熱伝達係数と絶縁基板と冷却板の間の界面熱抵抗を用い、100秒時の評価ライン上の温度に対しそれらの因子の同定を行います。
(a)は評価ライン上の100秒時の温度分布について計測(実線)とシミュレーション(破線)の結果の比較を表します。シミュレーションの結果が計測の特徴である冷却板周りの温度ピークが再現されている様子が分かります。また(b)は最高温度箇所(●印)の温度の時刻歴推移の比較を表し、こちらもよく一致していることが分かります。(c)は100秒時の計測とシミュレーションの温度分布を表します。シミュレーションでは評価ライン上を含め計測と類似の温度分布を再現しています。

2-2. Z変位分布の同定結果

Z変位分布の同定結果

計測されたZ変位分布をシミュレーションにより再現するため、熱伝達係数により得られた温度分布を入力とした熱応力解析を実施します。不確かさ因子には封止樹脂の線膨張係数を用い、計測における100秒時の最大Z変位箇所である★印部の時刻歴推移に対し因子の同定を行います。
(a)は100秒時の評価ライン上のZ変位、(b)は★印部の時刻歴推移について計測(実線)とシミュレーション(破線)の比較を表します。同定の評価指標である時刻歴推移ではシミュレーションの結果が計測をよく再現している様子が分かります。 (c)は100秒時の計測とシミュレーションのZ変位分布を表します。シミュレーションでは評価ライン上を含め計測と類似のZ変位分布を再現しています。

2-3. 計測とCAEの比較

計測とCAE(シミュレーション)の比較

上図は温度分布とZ変位に対する計測とシミュレーションの時系列推移の比較です。温度分布においては100秒時の評価ライン上の温度分布、Z変位分布においては100秒時の最大Z変位箇所の時系列推移のみを評価指標として同定を実施しましたが、時系列全体の分布においてもシミュレーションの結果は計測をよく再現していることが分かります。
 
このように不確かさ因子の同定によりシミュレーションが高い一致度で計測を再現できることが分かりました。以下では計測におけるモジュール内部の現象について、このシミュレーション結果を用いて評価します。

3. 同定されたシミュレーションによる内部評価

モジュール断面の温度分布と変位の様子

上記はモジュールの断面(断面B)における、計測に同定されたシミュレーションから得られた温度分布(左)および変位の様子(中)と特徴点の温度とZ変位の時系列推移を表します。変形の様子では変形の特徴が見えやすいように倍率を100倍の強調表示をしています。
 
これら断面の様子から、計測された温度分布およびZ変位分布の特徴がどのような内部の現象からもたらされたか見ていきます。

3-1. 内部の温度分布と放熱経路の評価

100秒時のモジュール断面の温度分布と熱流束

上図はモジュールの断面(断面A)における100秒時の温度分布(左)および熱流束分布(右)を表します。温度分布から、熱源であるチップの温度は最高で108℃程度まで上昇し、チップの周りが高温になっていることが分かります。しかしながら絶縁基板と冷却板の間の界面熱抵抗により温度分布にギャップが生じている様子が見られます。熱流束分布では熱流束の方向を矢印で、大きさを色で表しています。熱源であるチップから熱が広がる様子が見えますが、冷却面のある下方向への熱の流れが大きいことが分かります。その中でも主要な経路として、チップから基板上の銅回路部分を横方向に伝わり、冷却板を迂回するように冷却面へ抜けていることが確認できます。
モジュールの熱設計ではチップの熱は直下の冷却面に伝わることが理想であり、その場合は表面温度はチップ直下が最高となることが期待されます。しかしながら試作されたモジュールでは製造過程で異種部材の接合面に生じた界面熱抵抗により理想的な放熱経路が妨げられ、結果として冷却板の周りが高温となる表面温度分布が計測されたと考えられます。
本研究では同定の簡便さのため、シミュレーションでは絶縁基板と冷却板の間のみに界面熱抵抗を設定しましたが、実際には全ての異種部材間に界面熱抵抗は存在し、チップからの放熱はチップ直下に積層する各部材間において少しずつ妨げられて、結果として冷却板を迂回する経路が形成されていると考えられます。今後はこのような複合的な不確かさ因子に対する同定を実施し、より信頼度の高い内部評価手法の開発を目指します。

参考)界面熱抵抗を考慮しない場合

界面熱抵抗を考慮しない場合のシミュレーション結果

左タブで実施した熱伝導解析では放熱を妨げる因子として絶縁基板と冷却板の間の界面熱抵抗を仮定しました。もし界面熱抵抗を考慮しない場合には、シミュレーション結果はどのようになるでしょうか。
 
上図は界面熱抵抗を考量せずに計測結果への同定を行ったシミュレーション結果を表します。(a)の100秒時の評価ライン上の温度分布では、シミュレーションは全体的には計測と概ね類似の結果となっていますが、計測の特徴である冷却板周りの温度ピークが再現できていません。(b)の表面温度分布からも、チップの直下が最高温度となり計測結果とは異なります。
(c)の断面温度分布からは発熱源であるチップから距離が近いほど高温となる傾向を示しています。また(d)の断面熱流束においては、主要な放熱経路はチップから冷却板下側へ放射状に形成されている様子が分かります。
このように計測結果から得られた特徴的な温度分布を再現するためには、界面熱抵抗の寄与が不可欠な因子であるとことが分かります。一般に界面熱抵抗は製造時の接合により生じるため、設計段階では考慮することが難しく、その寄与を無視してシミュレーションが実施されます。その場合は上記の様なある意味で理想的な温度分布や放熱経路が得られますが、それを期待して実機を試作するとシミュレーションと合わない、といった齟齬が生じます。またこのような齟齬を含むシミュレーションでは実際の内部の現象を正確に捉えていないため、設計への効果的なフィードバックが行えません。
計測連携CAEでは計測と同期したシミュレーション結果を用いることで、モジュール内部の現象を高い精度で再現でき、効果的な設計フィードバックが行えます。

3-2. 断面による温度分布と変形の評価

100秒時のモジュール断面の温度分布と熱流束

上図は100秒時のZ変位分布の最大箇所(★点)の推移について、計測で見られた非単調な振舞いを特徴づける5つの時刻を抽出し、断面の温度分布および変形の様子(倍率x100)のスナップショットを表します。同定されたシミュレーション結果から計測のZ変位の推移は以下のように説明されます。

  • ①通電開始直後ではチップの発熱が積層部材に伝わり始めますが、封止樹脂は熱伝導率が低いため温度が上がりづらく、積層部の温度が先に上昇します。積層部ではチップに比べ直下の銅回路の方が線膨張係数(CTE)が大きいため、温度上昇に伴い下凸の反りが生じます。この振舞いが通電開始直後の中央部の+5μm程度の変位としてあらわれます。
  • ②時間の経過とともに封止樹脂部も徐々に温度が上昇します。モジュール全体では封止樹脂のCTEが最も大きいため、封止樹脂の熱膨張が支配的となり、徐々に上凸の反りがあらわれます。その結果、中央部の変位は徐々にマイナス方向に大きくなります。
  • ③100秒時では内部は最高温度となり、モジュール全体も最大で-25μm程度の変位を示します。
  • ④通電オフ直後では、積層部の熱が下部の放熱面へ先に抜け、一方で封止樹脂は低い熱伝導率のため熱が抜けにくく、そのため積層部の温度が先に下がります。積層部の温度が下がることで①で見られた下凸の反りが緩和されるため、結果として中央部がマイナス方向に-5μm程度変位します。
  • ⑤時間と共に放熱されるため封止樹脂を含めた全体の温度が下がり、変形は初期状態に戻ります。

本研究では計測連携CAEによる内部評価により、計測で見られた非自明な結果について、そのメカニズムが解明されました。

本研究がもたらす価値

計測連携CAEは、パワーモジュール開発の課題を根本から解決します。

🎯 高信頼な性能評価の実現

 
表面計測に基づいて不確かさ因子を同定することで、より現実に近い内部状態を再現したシミュレーションが可能になります。設計段階での性能評価の信頼性が大幅に向上します。
 

⏱️ 開発リードタイムの短縮

 
試作品の破壊試験や複雑な内部計測なしに、表面計測データだけで内部状態を推定できるため、設計・評価サイクルを大幅に短縮できます。
 

💡 設計最適化への貢献

 
界面熱抵抗や部材CTEといった内部パラメータを定量的に把握することで、放熱性・耐熱性に優れたパワーモジュールの設計最適化に直接貢献します。
 

🔄 幅広い応用可能性

 
本手法はパワーモジュールに限らず、複合材料構造物や電子デバイス全般の信頼性評価に応用可能です。計測とCAEを融合するアプローチは、次世代のものづくりを支える基盤技術です。
 


本研究は以下の学会で発表されました。

タイトル

表面計測とCAEによるパワーモジュールの信頼性評価手法の検討

発表学会

第34回マイクロエレクトロニクスシンポジウム(MES2024)

日時・場所

2024年9月11日~13日・大同大学

タイトル

計測連携CAEによるパワーモジュールの動的な内部評価手法の検討

発表学会

第40回 エレクトロニクス実装学会 春季講演大会

日時・場所

2026年3月10日~12日・東京たま未来メッセ 東京都立多摩産業交流センター


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